遺産の分け方と遺留分侵害額請求

本稿では、相続人の特定と法定相続分、相続放棄の続きとして、遺産の分け方と遺留分侵害額請求について簡単な解説をします。

目次

第1 遺産の分け方

【遺言書に基づく相続】

被相続人が遺言書を遺していた場合は、法定相続分ではなく、その遺言書の内容に基づいて相続を行います。
遺言書の内容には、被相続人が保有していた財産が記載されているため、遺言書があれば被相続人の財産調査に役立ちます。そのため、まずは被相続人が遺言書を遺しているか否かについて、確認する必要があります。

遺言書の種類は主に自筆証書遺言と公正証書遺言の2つあります。
自筆証書遺言とは、遺言者が財産目録を除いた全文を自筆で書き、さらに日付及び氏名を自書し、押印をした遺言書を言います。自筆証書遺言を発見した場合は、絶対に開封せず、家庭裁判所で遺言書の検認を行う必要があります。
公正証書遺言とは、公証役場で作成した遺言書のことを言います。公正証書遺言の場合は、家庭裁判所での遺言書の検認は必要ありません。


なお、公正証書遺言は、公証役場で作成する手間がかかりますが、①公証人が遺言書の意思を確認するため、遺言書が無効になりにくいこと、②公証人が遺言書と直接面談して真意を確認するため、遺言書の偽造の問題は起きないこと、③家庭裁判所での遺言書の検認が不要であることなどの大きなメリットがあります。
そのため、もしこれから遺言書を作成しようと考えている方には、公正証書遺言の作成をお勧めします。

【遺産分割協議に基づく相続】

被相続人が遺言書を遺していない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります(被相続人の相続人が誰かを特定する方法については、相続人の特定と法定相続分、相続放棄の記事をご確認ください)。
遺産分割協議とは、相続人全員で被相続人の遺産をどのように分けるかについて話し合いをすることを言います。遺産分割協議では、相続人全員の合意が得られるのであれば、法定相続分に縛られることなく、遺産を自由に分配することができます。


例えば、被相続人の遺産は現金4000万円のみで、相続人が配偶者と子ども2人の計3人の場合(第1順位)、その法定相続分によれば配偶者が2000万円、子ども1人が1000万円、子ども1人が1000万円となりますが、遺産分割協議で全員が合意できるのであれば、配偶者が1500万円、子ども1人が1250万円、子ども1人が1250万円とすることもできます。なお、遺産分割協議書の作成には、相続人全員の署名、実印での押印、印鑑登録証明書が必要になります。

一方で、遺産分割協議で相続人全員の合意が得られない場合(相続人1人でも遺産の分割内容に反対した場合)は、家庭裁判所において、相続人全員で遺産分割調停を行うことになります。遺産分割調停とは、家庭裁判所が中立・公正な立場で間に入り、相続人全員からそれぞれ言い分を聞いて調整に努め、具体的な解決策を提案するなどして、話し合いで円満に解決する制度です。

もしこの遺産分割調停を利用しても、遺産分割協議がまとまらなければ、家庭裁判所は遺産分割審判を行い、遺産の分け方についての判断を下します。この遺産分割審判では、ほとんどの場合、相続人それぞれの法定相続分で遺産を分ける内容となります。

第2 遺留分侵害額請求

第1で遺産の分け方について解説をしました。遺言書がない場合の遺産分割協議では、自分の法定相続分を下回る分割内容に同意しなければ、最低でも法定相続分は確保できることがほとんどですが、一方で被相続人が残した遺言書の内容が、自分の法定相続分を下回る内容であった場合、どうしたらよいのでしょうか。

まず、遺言書の内容は法定相続分よりも優先します。そのため、遺言書の内容が法定相続分に基づいていないとしてもその遺言書は有効です。
例えば、被相続人の遺産は現金4000万円のみで、相続人が配偶者と子ども2人の計3人の場合(第1順位)、その法定相続分によれば配偶者が2000万円、子ども1人が1000万円、子ども1人が1000万円となりますが、遺言書の内容では配偶者が2400万円、子ども1人が1500万円、子ども1人が100万円となっていても、その遺言書は有効です。


もっとも、一定の相続人には、遺留分という権利があります。遺留分とは、遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の留保分のことを言います。
遺留分は、相続人のうち、配偶者、子ども(直系卑属、第1順位)、親(直系尊属、第2順位)に認めらています。兄弟姉妹(第3順位)に遺留分はありません。また、遺留分の割合は、相続人が直系尊属のみの場合は法定相続分の3分の1となり、それ以外の場合は2分の1となります。


つまり、相続人が配偶者と子ども2人の計3人の場合(第1順位)の場合は、配偶者の遺留分が4分の1(法定相続分2分の1×遺留分割合2分の1)、子ども1人の遺留分が8分の1(法定相続分4分の1×遺留分割合2分の1)、子ども1人の遺留分が8分の1(法定相続分4分の1×遺留分割合2分の1)となります。


先ほどの例(被相続人の遺産は現金4000万円のみで、相続人が配偶者と子ども2人の計3人の場合)によれば、子ども1人の遺留分は500万円(4000万円÷8)であるものの、遺言書によって100万円しか相続できないので、遺留分が400万円分侵害されていることになります。この侵害された遺留分を取り戻す制度が遺留分侵害額請求です。
つまり、自分の法定相続分や遺留分を下回る内容の遺言書が残されていても、その遺言書は有効ではありますが、遺留分を侵害されている場合には、遺留分侵害額請求権を行使すること
ができます。

【遺留分侵害額請求の注意点】

遺留分侵害額請求は、相続の開始及び遺留分を侵害されていることを知った時から1年以内にする必要があります。

第3 まとめ

死亡届やお葬式が終わった後は、被相続人が遺言書を遺しているかについて調査する必要があります。
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議書を作成します。
遺言書がある場合は、遺言書に基づいて相続を行います。このとき、遺言書の内容が自分の遺留分を侵害しているか否かについて確認してください。

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